訳 堺屋七左衛門
この文章は Kevin Kelly による "Better Than Free" の日本語訳である。
無料より優れたもの Better Than Free
インターネットはコピー機である。いちばん根底のレベルでは、それを使う間の私たちの行動や文字や考えをすべてコピーしているのだ。インターネットのある場所から他の場所へメッセージを送ろうとすると、通信プロトコルに従って、その途中で何度かメッセージ全体をコピーすることになる。IT企業はこの絶え間ないコピーを促進する機器を売って大金を稼いでいる。コンピュータでひとたび生成されたデータの各ビットは、きっとどこかでコピーされる。デジタル経済はこのようにコピーの川を流れている。機械の時代の大量生産による複製と違って、これらのコピーは安いどころではない、タダなのである。
デジタル通信ネットワークというものは、できるだけ摩擦なくコピーを流すことができるように作ってある。たしかにコピーはとても自由に流れるので、インターネットは超配送システムであると考えることができる。超伝導の電線を電気が流れ続けるのと同じように、ひとたびコピーができると、それはネットワークを通じて永遠に流れ続ける。私たちはこの証拠を実生活で見ることができる。コピーできる物がインターネットに触れると、それはコピーされる。そのコピーは決してなくならない。ひとたびインターネットに流れた物を消せないことは犬でも知っている。
この超配送システムは私たちの経済や財産の基盤となっている。データやアイデアやメディアを即座に複製できるということは、経済の主要な部門、とく に輸出にかかわる部門を支えている。すなわち米国が競合優位性を持つ産業である。米国の富は、見境なくそして絶え間まなくコピーする非常に大きな装置の上に載っている。
前回のラウンドまでは、この経済における財産は貴重なコピーを売ることで築かれていた。だから無料のコピーが自由に出回ると既存の秩序の土台を揺るがす。私たちの最善の努力を複製することが無料であるとしたら、私たちはどうやって前進すればよいのだろう?要するに、無料のコピーを売ってどうやってお金儲けをするのか?
私にはその答えがある。簡単に言えば次のようなことである。
コピーが超大量にあれば、それは無価値になる。
コピーが超大量にあれば、コピーできないものは貴重で価値のあるものになる。
コピーが無料であれば、コピーできないものを売る必要がある。
さて、コピーできないものとは何か?
コピーできない性質のものはいろいろある。たとえば「信頼」。信頼はコピーできない。買うこともできない。信頼は時間をかけて獲得するものである。それはダウンロードできない。でっち上げることも偽造することもできない。(とにかく、長期的には。)もし他のすべてが同じ条件ならば、あなたは信頼できる人を相手にするほうを選ぶだろう。だからコピーで飽和する世界の中で、信頼は価値の増大する無形資産なのである。
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